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12月に入ると雨期もたけなわとなり、スコールのような雨の落ちる日、日本の梅雨のようなしとしと雨の日、と雨の降り方にも色々なバリエーションが出てきます。マンゴーは相変わらず熟して落ち続けていますが、高い木から落下すると重力が加わるため、たかが木の実とは思えないようなものすごい音をたてて落ちてきます。毎年、落下するマンゴーによって屋根瓦がこわれ、雨漏りがするのもこの時期です。「修理代がもったいないからマンゴーの木、切っちゃえば?」と毎年言われますが、私もイミスも庭にある大きな木は極力切り倒さないようにしたいと思っています。 じめじめした気候、雨の降るときと降らないときの温度差の大きさから体調を崩す人、亡くなる人も多く、お手伝いさんは身内に死者が出て今月は二度ひまをとりました。死因はチフス、マラリア、デング熱などです。 12月20日は「犠牲祭」というイスラムの重要な祝日でした。これより先11日がイスラム暦の最終月である「巡礼月」の第一日でした。世界中のムスリムが聖地メッカに巡礼をする月です。巡礼の最終日にあたる十日目に、巡礼を終えた人々は動物を犠牲にささげ、これにあわせて世界中のイスラム教徒が各地で動物を犠牲にします。 インドネシアで一般的な動物はヤギか牛ですが、より値段の安いヤギの方が多く使われます。 今回ははじめてそのヤギを犠牲にする現場を視察しました。 前日にイミスが購入した茶色のヤギは幼稚園児のようにイミスの名前を書いた名札を首からぶらさげて草を食んでいます。これはそのヤギを捧げた人が死んで天国に行く時の乗り物になるからで、誰のヤギだったかわかるようにするためなのだそうです。 動物を犠牲にするのは(メッカに巡礼できる人と同じで)経済力のある人で、屠った動物は貧者に配り、自分が食べることはできません。つまりこれが功徳を積むことになります。だからどんなに苦しい時でも「ヤギは買わなくちゃ。ご利益があるから」がイミスの口癖です。 朝9時に帆石亭すぐ前の海辺のモスクで犠牲は始まりました。小雨の振る中傘をさしてカメラを手に出かけてみるともうたくさんの人が集まってきていて、犠牲になる二匹のヤギは東屋の下でまだ草を食べていました。かたわらでは男の人が大きなナタを砥いでいます。 はじめに黒いヤギが引き出されました。後ろ足と前の左足をいっしょに括り、浅く掘った土の上に橋のように渡した丸木の上に寝かせます。この時頭はメッカの方角に向けます。なるほどうちでイミスやアディやその他来訪者がお祈りをする時に頭を向ける方と同じです。そして執刀者が祈りのことばを唱えた後、一気に頚動脈を切り、そのまま深く切り込んであっという間にヤギの頭は体から離れ、頚椎でかろうじてつながっているだけの状態になりました。血は丸木の下のみぞに流れていきますが、すぐに土にしみこんでしまうせいかあまり大量に出血しているようには見えません。ヤギの体の上にバナナの葉をかざしているのは、血が飛び散るのをふせぐためだそうです。 私は鶏と鳩ならうちで絞める時に何度か手伝ったことがあって、私の役は足と口を押さえているというものでしたが、より体の大きいヤギは二人が足を一人が口をおさえていました。驚いたのは、ヤギの頚椎はとてもがんじょうで、力のありそうな執刀者が何度ナタをふるってもなかなか首が落ちなかったことです。 首を切り落とされたヤギの体は後ろ足一本を木にくくりつけてぶらりとぶらさがり、今度は二人の人の手で器用に皮がはがされていきます。足に切り込みを入れて少しずつそいでいくのですが、ものの数分で黒い皮ははがされ、内臓の透けて見える白い皮膜だけの体がぶらさがっています。そして足三本が根元から切り離され、これは小さな子供がお手伝いをして地面に広げたバナナの葉の上に並べました。つぎに胴体を真ん中からそぐと内臓がぐにゃりとバナナの葉をしいたかごの中に落ちました。ヤギが痩せているせいか、肉より内臓の方がずっと量があるように見えます。人間も同じだろうな、内臓は大事にしないといけないなと思えた瞬間でした。そして木にくくりつけてあった最後の足を切り取ると残った胴とともにバナナの葉の上に並べられ、肉を骨からはがして刻みます。 もう一匹のイミスのヤギの方も黒いヤギが頭を切り落とされるとすぐに同じ場所に運ばれて犠牲にされ、別の木にくくりつけて解体するので二匹のヤギはほぼ数分違いであっという間に食肉となりました。この間わずか一時間。 ただしイミスのヤギは根性のあるヤギで、頭がちぎれそうになった状態でなおかつ起き上がろうとしたり後ろ足で地面を蹴り上げたりしていました。 この日屠られた二匹のヤギは32人の人に配られました。ほんの少しずつしか口に入らなかったのでは、と申し訳ない気分ですが、来年もしもう少し余裕があったらヤギ二匹か牛を一頭買おうと思いました。 頭と皮はいっしょにビニール袋に入れてどこかに運ばれていきました。このモスクは去年スピーカーをやっと買ったばかりでまだ銅鑼がないので、そのうち銅鑼の皮に張りたいと人々は話していました。 あとになって教えてもらったのですが、動物の中でヤギと牛がいちばん首の骨が硬くて頭を切り落とすのが難儀なのだそうです。豚はすぐ落ちるし、アディは以前バリ人集落で犬を解体するところを見たことがあるそうですが、犬の首もわけなく落とせたそうです。たまたまこの夜、日本のニュースでは夫を殺害して死体をバラバラにした女性の公判の様子を報じていたので首を切り落とすのはさぞかし大変だっただろうな、とへんな同情をしてしまいましたが、杞憂だったようです。 *20日の犠牲祭からやはり国民の祝日で休日のクリスマスまで連続して休む会社や工場が多く、インドネシアでは珍しい長い連休になりました。帆石亭ではジャカルタ在留邦人のお客様を迎えました。年末にはフランス、オランダからのお客様が何年ぶりかで尋ねて来てくれて、よもやま話に花が咲きました。 |
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Bungalow Batu Layar (帆石亭) 黒野
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